『私はなぜ今ここに…』 第30話

 

新しい経営指針研究会のメンバーは北地区会から今度は札幌支部が扱うことになったらしい。北地区以外の全地域からもメンバーが集まった。

このあたりから、経営指針は同友会全体の取組みになっていったようだ。

 

私の新しいグループのメンバーは、今の札幌支部長の宇佐美商会の宇佐美社長、札幌老舗のケーキと言えばパールモンドールの下出社長、エル技術コンサルタントの小林社長(当時)であった。この4名で1年間、あぁでもない、こうでもないとお互いの経営指針を話し合っていくのだ。

 

さて、張り切って入ってみたが、相変わらずこれと言って正解を見出したわけではない。

これから1年間また禅問答のような日々が始まるのだ。

 

私の今回のテーマは社員との関わり方と地域貢献だ。

見つかるまで何年でもやってやる。

 

毎月、熱心に通い、皆さんの経営指針を見させて頂き、私のものも当然見てもらい、いろいろと意見をいただいた。

でも、なかなか、私が求めているところの答えは出ない。

 

これだけは自分で考えるしかないのだ。

このときに独立する人には二通りいるのだ、と初めてしみじみ思った。

志が最初で起業する人、食べるために開業する人。私は後者だった。

 

志なんぞない。巻き込まれてここまで来たようなものなのだ。

唯一あるとすれば、最初の事務所のときの大先生みたくはなりたい、とそうは思った。

でも、じゃ、具体的にどういう風に?と言われると出てくる言葉はすべて陳腐だった。

 

気の利いた言葉でも探して作ろうものなら、なんだか借り物の文章になってしまう。

かといって普段の言葉で何か書こうとしても、本当になんだかくだらないものにしか見えない。本当に難しい、難しい作業だった。

 

でも、いろんな思いってあるでしょう?と言われるとそりゃそうだ、と思う。

でも、でも、書くと本当に何とも言えない夜中に書いたラブレターみたいな陳腐な文章になってしまうのだ(笑)

そして、その、書くという作業以前に、私は大事なことを考えねばならないのだった。

 

地域貢献、、、東区、札幌、北海道。

いや、わからない。何度考えても、出てこない。何も出てこない。

 

人に貢献、ならわかる。

地域ってなんだ。誰がそれを教えてくれるのだ。

みんなはどうやっているのだ。みんな本当にそんなこと思ってやっているの?

誰か教えてーーー。

 

何度も何度も考えた。でもわからない。

どうしよう。何のために私は行政書士をやっているのだ。そして、なんのためにこんなにがんばっているのだ。

 

走り回って走り回って、へとへとになって帰ってきたら、仕事もそこそこにみんなでお茶飲んでわははは、と笑っている社員たちをみてがっかりし、腹立たしく思ったこともある。

ともに戦う同志だと思っていた従業員は私が何も言わないのをいいことにだんだんと態度が変わり始め、怠け始めていた。

食べるためにだけ走り回るにはもう気持ちも限界が来ていた。

 

でも、私も結構好き勝手させてもらっていた。お互い様だった。

いい車に乗り、毎日すすきのに飲みに行き、マンションに住み、いいスーツを着て、旅行にも行き、余暇はスキーにテニスなぞ、ゴルフでは海外に別の会のメンバーと頻繁に行ったりしてうぬぼれていた。

 

しかし、そんな生活も長くは続かない。気持ちが続かないのだ。

なんだろう、だんだん飽きてきた。飲んで遊んで経営者同士で経営について語り合ってってつまらない、と思い始めていた。だって、自分の経営にはなんにも反映されてなかった。

さらに、平気で人を踏みにじり、相見積もりを取り、平気で値下げを強要し、約束を守らない運送業界にも本当に嫌気がさしていた。

 

違うマーケットにシフトしたいなぁ。ファイナンシャルプランナーもあるし、保険もいいな。建設業でも産業廃棄物でもいいや。

 

いや、しかし今は、私が毎日、生活させてもらっている糧は、99.9%が運送会社からの支払いのものだ。どうやってこれをシフトしていけばいいのだろう。

 

そう、運送会社の人たちから支払ってもらっている。。。

 

はっ・・・

 

私の頭から背中にかけて稲妻のようなものが走り抜けた。

それは十数年たった今でも、その瞬間のことを覚えているくらい。

 

何て私はおろかなんだ。

 

誰のおかげでこんな生活をさせてもらっているのだ。

男みたいなショートヘアでTシャツとジーンズでがりがりにやせほそって、毎月9万円で試験勉強しながら暮らしていたあの時代からこんな風にさせてもらったのは誰のおかげだ?

 

あの嫌だ嫌だと思っている運送会社の人たちから支払ってもらったお金ではないか。

なんで、こんな当たり前のことに気がつかなかったのだろう。

やっぱりお前って愚かなんだな。ひとみ。

 

運送会社だって苦しいんだ。

そんな中彼らは夜も寝ず、夜も明けないうちから働いているのだ。

そんな彼らを助けようとは思わないのか?ひとみ。

お前が苫小牧で夜逃げした空っぽの会社の前で泣いたのはなぜだ。

 

なぜ、そういう思いを忘れて、小金を稼げるようになったからと言ってあたかも成功したかのようにうぬぼれているのだ。

 

ただの代書屋で終わるのか?そんな志だったのか?

その彼らが喜んでお金を支払ってくれるような価値のある仕事をしているのか?

そして、たった数年で成功したかのように忘れているが、大先生の思いはどこへ行ったのだ。

 

…気がついたときには、はらはらと涙が出ていた。

 

そうだ。私は運送会社に、運送業界にしっかりと身を置き、恩返しをしなければならないんだ。それが私の使命なのだ。だから私は今ここにいるのだ。

 

 

腹は決まった。

と同時にこれから何をしなければならないのか、できること、今はできないけれども将来的には絶対に必要であろうと思われること、などを一気に紙に書いていった。

(続く)