そう思いながらも、たった1年半くらいの間にきてくださったお客様とのやりとりを思い出していた。
一般貨物の許可を取りたくて相談に来ていた小樽の社長が、いろんな世間話の中、佐々木さんはどうして開業したの、と言われ、事の経緯を話した。
そのときに社長は、私の言うことをきちんと聞いてくれて、そうか大変だったな、と言い、
『なぁ佐々木さん正義は最後に勝つんだよ』とつぶやいた。
当時の私には何が正義なのかわからなかった。ただただ一生懸命お客様のために、とやってきただけだ。仮に正義だとしてでも力がないものは負けるときは負けるとさえ思っていた。
でも、その言葉だけは心に残った。
辞めるかどうか進退を迫られてどうにもならない事態だと本当に感じ始めた頃、当時本当によく電話をくれていたお客さんからまた携帯に連絡があった。
滝川にある運送会社、E運輸のSさんからだった。
とても明るいそのSさんはその経営者ではなかったが担当者の方だったのでよく電話をくれて、あれやってこれやってと仕事を頼んでくれていた人だ。
Sさんと話をしていて、時々不思議なことを言うな~と思うことはあったのだが、ちょうどそのごたごたのときに電話をくれた。
そして、仕事の話をひとしきりしたときに彼が急に「何かあったのかい?」と聞いてきた。
私は誰にも相談できずにいたので、藁にも縋る思いで、実は、、、と話し始めた。
彼はしばらくの間、うーん、と聞きながら、「ひとみちゃん、独立しなさいよ」と言った。
え?私にはそんな実力はないです、まだ何も知らない、そんな自信もないのです、と言うと「大丈夫、あなたの未来は明るいから」と言った。
どうしてそんなことが言えるのだ、と思ったときにそれを察知したのか、彼は続けた。
「あのね、僕はそんなたいそうな人間ではないのだけれども、いろんな人から相談されるんだよ。僕は声を聞いただけでいろんなものが見える不思議な力があるみたいなんだね。
君は大丈夫。明るい未来が見えるんだ。その事務所にいてはいけないんだ。」
そうか、ダメならダメでまた別の仕事を探せばいい、やれるだけ精いっぱいやろう、
そうやって開業したのではないか、とふとあの争族の時を思い出した。
そのときの私にとって彼の言葉がどんなにか心強かったか。
そうか、やってみるか。
腹が決まった。
私にはその後も、その都度都度、本当に選択に迷ったときにそういう人が現れることになる。このときもそうだった。そういう人たちの言葉に支えられ、私は背中を押されて動くことになる。
どこでも開業はできる(自信はまったくないけれども)。まずは移転先を探そう。
その日、仕事がある程度落ち着いてから、移転先を探して即刻決めようと走った。
(続く)
佐々木ひとみ