どんな会社もそうだが、外から見るのと中から見るのとでは大きく違うときがある。
たくさんの従業員がいて、副所長がいて、行政書士の見習いがいて、とても素敵なオフィスで順当にやっているのだと思っていた。
でも、仕組みとしてはペーペーの新人もベテランも一緒だ。
顧問契約もなければ、新しい仕事をどんどん取ってくるしかないのだ。
ということは営業活動をしなければ次の仕事があるかどうかもわからない。
これが行政書士の宿命だ。
大先生のところは大先生のファンのお客さまがたくさんいた。
だから、定期的に仕事が入ってくるものが読めた。もうそろそろあの仕事が来るな、という。
でも、大所帯だと、それだけでは足りない。
常に新規を獲得していかなければならないのだ。
当然、顧客開拓と言っても運送会社がそんなにたくさんあるわけではない。
だとしたら奪い合いになるのだ。
かといってお客様にうちに来てください!と大きな声で訴えたところで決めるのはお客様だ。これはこの争族の騒動で重々身に染みている。
佐々木に世話になっていたから、と言って来てくださったお客様が、今、佐々木のところに来ているのだ。そのお客様の気持ちを裏切ることはできない。
だから、何度も顧客名簿を見せろと言ってくるA先生に、だんだん嫌な予感を抱き始めていた。
そろそろ近所に事務所でも借りて、独立したいな、と思い始めてなんとなく物件を探し始めたが、支局の周りにはそんなものがあるわけがない。
あったなら、最初だけ仮住まいをお願いしても、ほどなく長居せずにそこを借りているのだ。
気がついたら、一生懸命物件を探すようになっていた。
ふとそのことに気づき、あぁ、お互いに気まずくならないうちに円満に独立しようと思うようになっていたのだと今更ながら独立を意識するようになっていた。
もうこの頃にはA先生は、佐々木さん、今月はいくら売り上げがあるんだ、と聞きだしてきた。どうも私の売上と収入が気になるらしい。
いくら親戚でも(義理ではあるが)、人の事務所の売上を聞くなんてことはめったにしないものだと思う。
まぁ、、、〇〇万円くらいですかねぇ、と少しぼかして言うと、売上帳簿を見せろという。
さすがにそこまで来たら、いや、手元には今置いてありませんと拒否をした。
当然、寝ずに仕事もするが、趣味の時間も持つ私を怠けているのでは、と言い出してきた。
そして、顧客開拓、顧客営業もしないで趣味に走るとは何事だ、普通は最初の3年くらいは寝ずに仕事に没頭するものだ、みたいな説教を延々とし始めた。
いや、仕事してますって。同じキャリアくらいの行政書士から見たら数倍売上ありますもの。
ていうか、売上あろうが、売上が減ろうがそれは私の問題だ。何も迷惑をかけてない。そう思う私もだんだん反抗的な顔をするようになってきた。
ある日、突然、応接間に呼び出され、君は行政書士に向いてないのではないか、この仕事を辞めなさい、と言われた。
(続く)
佐々木ひとみ