その後、まったく何事もなかったかのように毎日が過ぎ、私の車以外はもう日常生活に戻りかけていたある日、警察からまた電話が来た。
佐々木さん、もう一度、現場検証をします。
現場検証と言ってもあなたの言う通り、走った通りを再現してみて、記録を取っていきます。
ということだった。望むところだ。
日時は、事故の起きた日と同じ土曜日、時刻も同様の午後4時半くらいの時間帯、空いていますか?と聞かれたのでスケジュールを確認し、大丈夫ですと答えた。
では当日その時間の30分前くらいに警察までお越しくださいと言われてわかりましたと電話を切った。
当日、16時くらいに警察についた私は、担当の部署へ通され、挨拶した後、軽く今日の流れを確認されパトカーに乗った。
警官二人と私、私の横にももう一人警官。たったこんな事故のために本当にご苦労様だと思った。向こうさえ嘘をつかなければやらなくてもいい作業だ。
まったくもって世の中にはびこる嘘つきのために税金をこうやって無駄遣いする、社会の縮図みたいな時間だ。
パトカーは、警察を出発して、私の言っている豊平川のかわっぷちの道路に出た。
幌平橋からスタートします、と言ってそこに着くとその橋の手前で赤橙をつけて待機した。
佐々木さんはここは赤で止まったのですね、と警察官。
はい、そうです、私の家から22条橋を曲がり普通に走ると必ず幌平橋で一回止まります、と私。
では、と時計を見た警察官は、これから現場検証をスタートします、と言った。
青になった幌平橋をスタートし、佐々木さんこのくらいのスピードですか?と聞いた。
いえ、もう少し上げてください、この辺は80㎞/hで、あの辺くらいまで100㎞/hにあげてもらえますか?と私が言う通りに赤橙をつけたパトカーはスピードを上げた。
そうすると、向こうの橋の歩行者用の信号が点滅し始めるはずです、そして、赤になるのと同時くらいにあの橋を渡れるはずです、まだ信号が黄色になるかならないかというギリギリのところで、と私は早口で付け加えた。
パトカーはぐんぐんとスピードを上げた。周りの車は何が起きたかと思ったろう。
そして、問題のあの橋が見えてきた。
歩行者信号が点滅し始めた。橋にどんどん近づいていく。
赤になった、そして全員が車両用の信号を見上げた。
青だ。
その瞬間、パトカーはその橋を通り過ぎた。
(続く)
佐々木ひとみ