そのマルボウの人が、「佐々木さん、さきほど保険の方から連絡が来ました。あなたの病室に相手方の人間が行きましたね。怖い思いはされませんでしたか?何を話されたのか、それはいつどこでなのか、今後はすべて記録を取っておいてください。また、一瞬でも怖いと思った瞬間にすぐに電話をください。今書き留められるものはありますか?」と言った。
はい、と言って看護師さんに口パクでメモありますか?と言い、慌てて記録した。
「以後、もし何かちょっとでも嫌な思いをされたらすぐにこの番号に連絡をください。」と
言い残し、そのマルボウの人は電話を切った。
そのメモ用紙を持って、病室に戻り、さっそく携帯番号に登録した。これで安心だ。
それっきり、マルボウの人も、マルボウの人が気にしている相手方も一切連絡がなかった。
数日後には、麻生の整形外科に空きができました、転院しますと言われ、そのまま荷物をまとめさせられ、救急車にてまた搬送された。
はぁ、やれやれ、これで少しはスタッフも安心するだろう、と思い、麻生の病院に入り、ベッドで荷物を片付けていた。
佐々木さん、診察がありますから、と看護師さんが呼びに来た。
はいはい、また診察ですか。こないだ、レントゲン取ったでしょ。と思いながらも松葉杖を取り出して診察室に向かった。
新しいお医者さんだ。今度は親身にみてくれそうな人だな。
そのお医者さんは真剣に私の膝のレントゲン画像をのぞき込んでいる。
佐々木さん、ちょっといいですか。
はい、と私。
あなた、これ、骨折してませんよね?
え?と一瞬、医者の言葉を復唱した。骨折してませんよね?
しばらくの沈黙のあと、ですよねぇ~~~!!!と私は笑った。
だって、松葉杖無くても歩けますもん。痛くもないですもん。
骨折は何度もしているからわかる。あの痛みがなかった。
だから、言ったのに!
でも、お医者さん、前の病院では膝に影が見えておそらくこれが亀裂でしょう、と言われたものがあったんですよ。それがその部分が骨折、人によって痛みも違うから感じないのかもしれないけれども、あなたは骨折してます、って言われたんですよ。
お医者さんは少し考えながら、佐々木さん、何か激しいスポーツとかやっていませんでしたか?と聞いた。
え、今、スキーをやっています。シーズン大体70~80回はスキー場で練習してます。
今は夏なので週3くらいでテニスをやっていますけれども。
そうですか、とお医者さんは言葉を続けた。
時々、膝にこういう影が映ることがありますが、これはおそらく膝と靭帯がつながっているところが激しいスポーツによりはがれてきているときに見られることがあります。
この影はおそらくそのものでしょう。佐々木さん、足のどこか痛みますか?
いえ!いえ!私、どこもかしこも何でもないです!大丈夫です!っていうことはすぐに退院ですよね? 先生、帰れるんですよね? このギブスは?
とまくしたてるとお医者さんは笑いながら、大丈夫ですよ、すぐにギブスを取る処置しますから処置室に言って退院してください、と言った。(続く)
佐々木ひとみ