『私はなぜ今ここに…』 第14話

 

それから入院生活が始まった。

痛くないんだけどなぁ。。。でもやっぱり骨折してるんだろうか。

 

中学校のときに膝の皿を割って骨折、松葉杖。高校のときはバスケットをやっていて靭帯損傷でこれもまたギブスの松葉杖。 松葉杖ならまかせとけ。

慣れた手つきで松葉杖を使い、あちこち移動した。

 

うちのスタッフもあわてて月曜日病院に来て、まずは今週の仕事の詳細について打ち合わせし、指示を出した。

 

先生。いつくらいに退院できるんですかね。とうちのスタッフが不安そうに言う。

うーん。まぁ1カ月はねぇ。かかると思うけどね。

 

ちょっと青ざめた顔で、かわりばんこに打ち合わせに来ますね。と彼女。

本当は面倒なことしやがってと思っているんだろうな、と私。

 

いや、あれだ。事務所のそばというよりあなたたちが来やすい、麻生あたりに転院するから。

そのほうがいいでしょ?というと、彼女もうんと少し遠慮気味に頷く。

 

わかったよ。転院できるように聞いてみるから。と言って彼女は安心したように帰っていった。

 

お医者さんにも麻生の整形外科に移りたいと申し出て、書類を書くと、なんと1週間待ちだと言われた。しぶしぶ、1週間、退屈な日々を過ごすことを受け入れざるを得なかった。

 

それから1~2日経ったある日、お見舞いの人が来て、しばらく話をして帰っていったので玄関まで見送った。そしてえっちらおっちら松葉杖をつきながら病室に戻ると、同室のほかの女性二人の顔が固まっている。

 

え?と思って、私のベッドをみると、いかつい男が二人、腕組みをして仁王立ちしているではないか。

 

誰?知らない人。と思い近づくと、佐々木さんですね、という。

 

あ?あたしに?と思い「はい」と答えると、「先日の事故の相手方のものです」という。

ん~まいったなぁ。こりゃ。てことはなに?あちらの人???

 

うちのやつらがご迷惑をおかけしたそうで、と一応頭を下げるが、顔は絶対にそうは思っていない顔をしている。しかも、お前が赤で入ったんだよね、と言わんばかりのするどい目つきだ。そして特大のくだものカゴを置いて、まずはお詫びとご挨拶がてら、と。

 

はぁ。あのですね。私は赤信号では入っていませんからね。それだけは間違えないでくださいよ。私は被害者です。おたくの方々ですからね、入ってきているのは。

 

と念を押し、お見舞いのくだものカゴを突っ返した。これは結構です。受け取れませんからと言うと、あっさりとそうですかと引き下がった。できるだけおとなしくしていろ、と言われてきたのだろう。そして軽く頭を下げて、また来ます、と言って帰っていった。

 

二度と来るな!と大きな声で言いたいところだったが、ナニ?この小娘が!と戻ってこられたら怖いので黙って後ろ姿を見ていた。心臓がバクバクしてとまらなかった。

 

車の保険の人に電話をした。

何か、入院しているところにも事故の相手方の人が二人来たのですけれども、と言うとわかりました、警察に連絡してみます、と言ってくれた。

 

そこに母がお見舞いに来た。私はばくばくした心臓の音が聞かれないように、こそっと、なんか相手の人が来たんだよね、とだけ伝えた。

母は、ふつう、相手の人って直接来るもんなの?と何も知らないからそう不思議がっていた。

そりゃ、くるわさ。義理人情の世界の人だもの。

 

1時間ほどしたら、佐々木さーん、電話でーす!とインターホンで看護師さんから呼ばれた。

はいはい、今度は誰じゃ、とまた松葉杖を出して、えっちらおっちらナースステーションに向かった。

 

電話の相手は警察だった。

また?今度はなに。と一瞬険しい声を出したら、「いえ、先日の事故のものではなくて暴力団なんちゃらかんちゃら〇×▽※◇です。」という。

 

聞きなれない単語に一瞬頭の中で言われた漢字を並べてみて、うーん、うーん、えっ?と

思った。俗にいうマルボウってやつ???

 

佐々木ひとみ