ほどなく、救急車は病院についた。
あの日本ハムが野球をする札幌ドームの近くだった。(当時はまだドームはない。)
もう日も暮れて真っ暗の中、担架に乗せられ病院に入り、看護師さんにどこが痛い?他に痛みは?と聞かれた。
膝ですかねと答え、他にケガしているところがないか入念にチェックされ、ほどなくレントゲンを撮り、しばらく待たされたあとに医師に呼ばれた。
むこうの方ではミキハウスのトレーナーの兄さんが、俺も首いてぇんだよーと騒いでいた。
レントゲン写真を見た医者は膝ですね、といい、膝の写真を念入りに見ていた。
実はそんなに膝は痛くないんだけどな…
さっきぶつかったときにどこが痛い?と聞かれたので、うぅん膝かな、くらいの感じだった。
あぁ、骨折してますね。
へ? いや、だから痛くないって。そんなん、歩けますって。
大丈夫です!ほら!立てますし!
医者が怒ったようにつぶやいた。
「骨折してるんだから、無理しちゃだめですよ。」
先生、私、今シーズンスキーできますかね。まぁテニスはあきらめるとしても、冬には大丈夫ですよね。との私の問いに適当に頷いた医者は、処置して、と言い残していなくなった。
その後、包帯のお化けみたいなものが出てきて、足をぐるぐるとまかれ始めた。
濡らして柔らかくなっているその包帯は乾くと固くなるんだそうだ。そうして私の右足は太ももから足首までギブスで一直線になった。
いやー・・・まいったなぁ。入院なんかしてる場合じゃないんだけどなぁ。
しかも、ここ、月寒でしょう?
車もどうなったのかなぁ。車。あ、そういえば、車ないんだ。
もし退院したとしても、あたし、どうやってここから帰るんだろう。
ていうか、スタッフもどうやってここまで来るのかな。うちの事務所からはかなり遠いなぁ。
なんて、病室に運ばれてベッドの上でぼーっと頭を巡らせていた。
そうしていたら、何かベルの音が聞こえた。
ん?なんだ?何の音?
あちこちきょろきょろすると、ベッドの横の電話が鳴っている。
え、あたし?…かな?
電話をおそるおそる取ってみた。
はい。
あ、オタク、赤信号で入った車両の方ですか?警察ですけれども。
はい?
オタクですよね。車両事故に合われて。赤信号で入った方ですよね?
はい?
いや、ですからね。警察ですけれどもね。まず簡単にいろいろとお聞きしたいことあるわけですよ。
いや…はい?
赤信号で入った車両の佐々木さん。オタクでよろしいですね?
ケガどうですか?お話できますか?
ふつふつと怒りが湧いてきた。
いや、あのですね。私、赤信号でなんか、入ってませんから!
いやいやいや、何を言ってるんですか?
いや、ですからですね。私は赤信号では入っていません。入ってきたのは向こうの車です。
…いや、佐々木さん。おたくでしょ。赤信号で侵入したの。
いや、違いますから。
いや、だってね、佐々木さん、目撃者いるんですよ?オタクが赤で入ったって。
はぁぁぁ?冗談じゃない!誰がそんなことを言っているんですか。その目撃者の名前教えなさいよ!
お教えすることはできませんよ。もし何かあればそれは裁判のときになるでしょうね。
いや、いや、それって仲間が目撃者のふりして貴方たちに伝えただけでしょう?
絶対そうですって。調べてみてくださいよ!
いえ、それはできません。
いずれにしても、ケガの状況を見て警察としては調べなければいけませんので、近々お伺いすることになると思います。よろしくお願いいたします。
と言って、電話は切れた。(続く)
佐々木ひとみ