はっと気がついたら、あたりは真っ白だった。
はぁぁ、アタシ死んだんだ。
なんか、短い人生だったな。あっという間だったな。
心臓がバクバクしていた。ん?バクバク?
アタシ生きてる??
目の前にある白いものをそっと触ってみた。エアバッグだ。
慌ててそれを手で払い下した。
あたりも真っ白な粉だらけだった。
フロントガラスは割れて粉々になり真っ白になっていたが、割れ落ちてはいない。
左をみると誰も乗っていない助手席のエアバッグも出ていた。
勿体ない、これってまた入れられるのかしら、なんてこんなときに考えている場合ではない。
まず何からすればいいのかしら。なにも考えられずにふと窓を見ると向こうにぶつかったベントレーが橋の欄干のところまで飛ばされていた。
その車から4人の男が降りてきてこっちに向かってくる。
トレーナーがミキハウスと書いてある。あたまはパンチパーマだ。
あぁ、やっちゃった。
何がどうなってこんな状況になったんだろう?
私の体はどこか変になっているんじゃないかしら。
足、膝が痛いな。
まもなく、そのパンチパーマの男たちが近づいてきた。
私はどきどきする心臓の音を隠すように冷静を装った顔で、窓をおろした。
「おねえちゃん、だいじょうぶかぁ?どこか痛いところないのか。」
「大丈夫ですよ。足がちょっと痛いけど。」
「今、救急車呼んだからな。それまで少し待っててな。」
「はい。」
「ところで、おねえちゃん、ダメだよぉ。赤信号で入ってきちゃ。なぁ。」
と同乗していた周りの仲間に同意を求めるとその同乗者たちも
「そうだよ。おねえちゃん、信号無視はだめだよな。」と言う。
「え?」一瞬、わけがわからなくなった。
私が?赤信号で入った?
動揺しているのをいいことに自分たちが全員口裏合わせで、私が信号無視で入ってきたかのようなことになっていた。
いや、ここで引き下がってはだめだ。
「なに、言ってんのよ。赤で入ってきたのはアンタたちじゃないのよ!なに嘘ついてんのよ。」
と言うと、「いやだなぁ。俺たちは青だったよなぁ。」と全員で顔を見合わせながらうなずいている。
そうこうしているうちに救急車が来て、私は車から降ろされ、救急車に運ばれた。
そこでまずは名前とか連絡先とかを聞かれていると、またその救急車に相手方の男が一人救急車の扉を開け入ってきた。
「いやぁ、俺も首痛いから一緒に病院に連れて行ってくれよ。」
たぶん、私が余計な事(本当は事実なのだが)を言わないように見張りをつけたのだろう。
車両の中が緊張感漂っている。救急車はそのまま出発した。
(続く)
佐々木ひとみ