『私はなぜ今ここに…』 第2話

 

4大卒業とはいえ、世間一般で言う資格を何も持っていない。教員免許だけだ。

お局さまは、経理すらできないのであれば事務職の二十歳のお姉ちゃんと同じ給料でいい、と言ってきかない。12万だ。残業もない。25年前とはいえ、12万はきつい。

 

当時の士業の事務所なら大体このくらいが相場だったようだが、その前まで私は教員として相当額の給料を貰っていた。なので前の年の税金が3万円かかってきた。

 

12万から3万円引かれることになり明細をみて驚く。
おいおい、手取り9万円て。

事務所内ではめっぽう気の弱い伯父がそっとささやく。

 

『行政書士の資格を取ったら、お前の希望の給料になるように話をつけてあげるから。』

 

いやいやいやいや、試験なんて!
法律なんて知りませんもん! 勉強嫌いですもん!

 

『10月に試験があるから。』

いや~、今5月でしょう?

 

仕方なくその足で、当時の資格を取るための学校に向かった。

え?行政書士コース6万円?

 

9万で生活して、マンションのローン払ったら、なんにも手元に残らない。

毎日晩ご飯はおにぎり1個とビックルの生活が始まった。

 

学校のお金は母から借りた。

教員当時のわずかな貯蓄は引越費用とマンションの頭金で消えていた。

 

少しでも足しになればと思い、家庭教師のアルバイトも2件かけ持ちした。

わずか4万円。中学生の家庭教師をしながら、その子の教科書を盗み読みして一般教養の試験の勉強をした。

 

あらためて歴史の面白さを知ったのはそこだった(笑)

教科書もそうなると読み物として面白い。数学の教科書もそうだった。試験には関係ないけれども。

しかし、そんな呑気なことを言っている場合ではない。

受からなければ、また1年間9万円での生活が待っている。必死で勉強した。

 

当時、中央大学の法学部で弁護士を目指している友達がいたから、一緒に勉強させてもらった。だって、民法が読めない(笑) 元来勉強嫌いで頭の悪い私には、なにを言っているのかすらもわからなかった。

 

いよいよ、10月。
試験勉強のためバッサリと髪を切り、男子のようなショートヘアだった私は30歳なのに白髪でびっしりになっていた。

 

30歳にもなって試験など、慣れないことはするものではない。

 

試験当日は雨が降っていて、会場の中は冷え込んでいた。

寝られないことのない私が珍しく前日は全くと言っていいほど、寝れなかった。

やばい、もう2時だ。とにかく寝なきゃ。

仕方ないのでワインをがぶ飲みしたのがまずかった。  (続く)

 

佐々木ひとみ