私はそこで、もう一人の素晴らしい先輩と出会うことになる。
I専務だ。T社長もI専務も私と10歳ほど違ったはずだ。
当時はみんな若くて(笑)長女だった私は二人をお兄ちゃんのように慕って地区会活動にいそしんだ。そのうち、I専務は地区会の会長、T社長と私が副会長となっていく。
私は、寡黙で誰に対しても腰が低く、男気のあるI専務が大好きだった。
今でも尊敬している。
当時の地区会は非常に活気があって、たくさんの人が参加していた。
ある日、I専務と同年齢位の方がその例会の幹事をしてくださったのだが、私はその進行等に非常に不満を持った。
I専務の評判を落としてはならない。
そう思った私は、誰に対してということではなく、幹事のあり方や、例会準備に対する心構えみたいなものをつらつらと書き、いったんどんな役割でも引き受けたからには責任というものがある、経営者ともなればなおさらだ、などと説教めいたことも書き、幹事たちが見るメールの送信ボタンをポンと押した。
その後、私はちょっとだけ後悔した。
なんだか、メールだとちゃんとした気持ちが届かないような気がしたからだ。
しばらく月日が経ち、I専務から電話が来た。
例会等の準備等ひんぱんに連絡をしていたので、また事務連絡だろうくらいの気持ちで携帯電話に出る。
様々な諸連絡等を済ませると、I専務が最後に、「佐々木さん、今度夜食事でもしないか」
私は大好きな先輩といろんな話を二人でできると思い、二つ返事でOKした。
焼き鳥屋の個室に入り、さて、何から話すのだろうとわくわくしながら飲み始めた。
しばらく雑談と地区会の話で時間が過ぎ、ふと、彼が黙った。
「佐々木さん、気を悪くしないで聞いてもらえるか」
はい、一瞬嫌な予感がした。
いろんな場面での協力を感謝しているよ。様々な場面での君の考えは間違っていないし、地区会の活動も一生懸命やってくれている。この間のことも君の発言は間違ってはいない。
でもね、正論を高らかに君が言えば言うほど、君が悪く見えてくるのはなぜなんだろう。
本当にね、いつも感謝しているんだ。だから、悪い風には取らないでね。
この間、君が発言したメールのことは、みんなも心の中では思っていたと思うんだ。
でもね、悪いものは悪い、と正々堂々と発言した瞬間に、君の周りになんとなく嫌な空気が漂うんだ。そこまで言わなくてもってね。
言葉ってね、発した瞬間から、取り戻しが利かなくなるんだ。
だから、君に損してほしくないと思うから、今日はこういう時間を持たせてもらった。
気を悪くしたらごめんね。
私はずぅっと下を向いていた。涙がこぼれそうだった。
私は大好きな先輩のために一生懸命やってきた。
なのに、先輩を困らせてしまっただけではなく、そんなことに時間を使わせて、嫌なことを言わせてしまった。
きっと、私の知らないところでは、佐々木また…とみんなが困り、そのときにI専務は様々な人と連絡を取り、批判された幹事の人にも思いやりの電話をし、地区会全体の人間関係を調整したはずだ。みんなのことを考えなければならないのが会長の仕事だ。
そんなことをさせて、私は一体何をやっているんだ。
でも、泣いちゃいけない。ここで泣いたら、また、I専務が気を使うだろう。
そう思い、ぐっとこらえた。
ごめんなさい。と言うのが精いっぱいだった。 (続く)
佐々木ひとみ