『私はなぜ今ここに…』 第28話

 

南間さんとは顔見知り程度というぐらいの付き合いの先輩だった。でもある日、電話が来て「佐々木さん、ちょっと一緒に勉強しないか。同友会の北地区会でやっている面白い勉強があるんだ。」

 

はい。わかりました。と返事はしたものの、ん?私?なんで?と思ったが、その当時の未知の会(青年部)はイエスorハイの世界だ。

先輩が『こう』と言ったらそれに即答で『わかりました』だったのだ。

 

決してご本人の名誉にかけて書いておくと南間さんはそんな人ではなかった。非常に物腰の柔らかいまじめな経営者だ。誤解しないでほしい。

 

しかし、せっかくお電話いただいてご指名なのだ。行かないわけにはいかない。

 

でも、何の勉強かも聞かなかった。

のちのち、ちょっとだけ不安になった。なんの勉強だろう。

 

で、電話してみた。一応。

あの、南間さん、先日勉強会があるっておっしゃってましたよね、あれってなんの勉強会なのでしょうか。

 

あぁ、あれね、経営指針と言ってね、佐々木さんもほら、そろろそ開業して落ち着いた頃だからあれはやっておいた方がいいと思って。

 

へぇぇぇぇ!!!無理です!そんなん考えたこともありません。まだ早いです。
南間さん、私のことかいかぶりすぎですよ。経営指針って大きな会社のやるものじゃないですか!私吹けば飛ぶような個人事業主ですよ!

 

いや、まぁ、いいから。来てみなさい。きっと君のためになるから。

 

そう言って電話は切れた。

 

あぁぁ、やばい。簡単に返事をするものではない。

経営指針ってなに。よくわからないし、考えたこともない。

そんなこと考えるのは大企業の経営者の人たちでしょ。

私は食べるために今必死で動かねばならないのだ。そんなことを考えている時間ないのに。

 

困った。でもその日はやってきた。

今でも覚えている。北24条駅からほどなくある北区民センターだ。

私の高校がそばだったから毎日3年間そこの前を通学していた懐かしい場所だ。

 

その部屋に入った瞬間、もう本当にやばい、帰りたい、と思った。

なんだか、経験豊富な経営者の方々ばかりだ。

 

ほら~やっぱり~(涙) 私みたいなぺーぺーなやつ、いないじゃないですか(泣)

泣きそうな顔して南間さんを見た。南間さんはしれっとしてまぁどうぞ、と私を席に案内した。

 

これやばいやつでしょ。公開処刑みたいな感じになってませんか???

 

早速、勉強会が始まった。

このメンバーが今期の経営指針研究会のメンバーとしてやっていきますという司会の方の

ご挨拶があって、「いやいや、やっていくとは限らないんですけど」と思いながら、いつ断ろうと思い、お尻がむずむずした。

 

自己紹介になり、次に来月からの発表者の割り振りとなった。

えーーーーー。発表者って。もうできてるの???みなさん!

 

そんな私の心の叫びなど、まったく届くはずもなく。

粛々と各月の発表者が決まっていく。

 

えっと、じゃ、佐々木さんは6月で。

 

はいーーーーーーー?????

いやいや、できてませんて!ていうか、今日初めて聞く話なんですけどぉぉぉ。

 

その後、同友会で発行している「労使見解」という冊子を元に、読み合わせが始まった。

もう、必死だった。でも、読んでも、あんまり何言ってるかわからなかった。

と言うよりもまったく実感もなかった。

 

その日戻ってから、もう頭の中がぐるぐるして、どうしていいのかもわからなくて、やっぱり断ろう、あたしには無理だ、いや、やらねばならないんだ、の繰り返しが頭の中で行ったり来たり。

 

そうこうしているうちに5月になった。またその例会の日が来た。

読み合わせが始まり、次に一枚の紙を渡された。これをやってきなさい、と。

 

はぁ~。もう来月じゃないですか。私の番。

 

その当時、とっても崇拝していたファイナンシャルプランナーの先生がいた。
東京からわざわざ札幌にライブ講義をしに来てくれていた現協会の重鎮の税理士の方だ。あるきっかけから親しくなって、札幌に講義があると決まってご飯を食べていた。

 

そのときにその先生に聞いてみた。先生のところって経営指針ってあるんですか?私来月発表しなきゃいけなくてとても困っているんです。と。

 

そうすると彼は「うちも経営指針はあるよ、こんな感じかな」と話をしてくれた。

そりゃそうだ、赤坂の一等地で税理士事務所とはいえ、かなりの社員を抱えてやっているんだもの。先生んとことちっぽけなうちは違うんですよー。と思いながら、でも、なんか使えるところないかと片方の耳では必死で聞いていた(笑)

 

よしよし、そういうふうにまとめればいいのだな、記憶したぞ。

帰ってから6月の例会に向けて、そのシートを埋めていった。

 

ふんふんふんふん♬

意外と簡単じゃない。

なぜ起業したのか?社員に対する思いは?等いくつかの質問を埋めていく。

そんなこと、いつも思ってますよ~とすらすらと書いていけた。思ったよりも楽勝じゃないかしらんと思ったが、しかし、どうしても最後のところが埋められなかった。

 

あら、どうしよう。あなたの企業活動を通しての地域貢献とは?

そんなん考えたことないって。食べるために開業したのだもの。

地域貢献てなに?

地域貢献、、、事務所の周りとかを毎日清掃するとか?

東区で何かやるとか?

札幌で???そんな力私にある?

 

うーん。暗礁に乗り上げた。まぁ、いいや。最初だし。考えたけどわかりませんでした、って言えば最初だし、許してもらおう。

 

しかし、確実にその日はやってくる。そこの部分は適当にきれいな言葉でなんとかまとめて持っていくこととした。 (続く)

佐々木ひとみ

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