『私はなぜ今ここに…』 第7話

 

ただ、当時はまずは今できる書類の作成を必死でやっていくしかなかった。

 

早速お客さんから携帯に電話が来た。

まずはどうしたの?何があったの?大先生死んだの?あなたは受付の女の人だよね、親戚だったんだ、行政書士の資格持っていたんだね、どうして先生のところを継がなかったの?などなど、いろいろ聞かれたが、面倒なのでそのうちにお話しますと伝えた。

 

まぁいいや、とお客さんは続けて、増車申請お願いするよ、と。

わかりました、と早速作ってお客さんのところへ持参して押印してもらった。
そして、「いくらだっけ?」「1万5千円です」と言うとすぐにその場で払ってくださった。

 

行政書士としての始めての収入だった。未だにそのシーンは覚えている。

現金を手にした瞬間、私の中でスイッチが入った。

 

よし、稼ごう。

この仕事って稼げばそのまま自分のものになるんだ。

がっつり稼いで裕福な生活をしよう。

 

そこからは仕事の鬼となった。

まずはA先生に作ってもらった名刺をまたたくさん作って、自作の顧客データを持ち、どこから営業に行こうか考えた。

 

エリアを決めて、毎日、少なくても10社は挨拶に行こう。

当時のナビもついてないボロ車で、札幌市近郊の地図に今日行く10社の印をつける。

朝から訪問して、道に迷いながらようやく10社終える頃には夜真っ暗になる日々が続いた。

 

葛西陸運相談所にいるころはガリガリの身体にTシャツ、ジーンズばかりだった私が久しぶりに教員時代のスーツを来た。母はその姿をみてとても喜んだ。

 

毎日毎日、とにかく聞いたことのある会社を訪問した。
ほとんどが社長不在。でも気にしない。

なんのアポもないまま、失礼しますと入っていくとみな不思議そうな顔をする。

どちら様ですか?と事務の方が聞いてくる。

 

「行政書士の佐々木ひとみです。先日、ご挨拶の葉書を送らせていただきました。」

「はぁ。」

「あの、葛西陸運相談所にいたものです。」

「あぁ、葛西先生。で?あなたは?」

 

大概がこのやりとりだ。

姪っ子の佐々木ひとみです、と言ったところで全然ふーんてな感じだ。

 

葛西先生のところにおりましたが、開業しました。何かお仕事ありましたら、なんでもやりますのでよろしくお願いします、と言って頭を下げ名刺を置いてくる。

大体はそっけなく名刺を受け取って早く帰れと言わんばかりの顔をされる。

 

ある日、花木運送という会社にお邪魔した。

当時でも大変高齢だったと記憶しているが、こんにちは、と会社を訪問すると、社長が出てきた。当時の葛西事務所に来ても、本当に優しい物腰の社長だった。

 

おお、佐々木さん。あんた独立したんだな。でもあちこちから葉書だのFAXだのいろいろ連絡くるぞ。うちが(長男坊も)葛西陸運相談所の後を引き継ぎましたってな。一体何があったんだ。

まぁ、上がりなさい。

 

…私は言葉を選びながら、ポツポツと経緯を話始めた。

黙って社長は話を聞きながら、最後にぽつっとこう言った。

 

そうか、大変だったな。いつも葛西先生のところに行くとアンタが受付で一生けん命やってくれたもんな。だから、うちのことをよくわかっているだろう?アンタに世話になったもんな。うちはアンタにこれからも頼むよ。

 

本当ですか?と顔がぱぁっと明るくなった。

私の話を信じてくれたのだ。ありがたい。

社長の温かさに感謝して、帰りの扉のところで何度も何度も頭を下げて帰ってきた。

(続く)

佐々木ひとみ

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