『私はなぜ今ここに…』 第12話

 

はっと気がついたら、あたりは真っ白だった。

 

はぁぁ、アタシ死んだんだ。

 

なんか、短い人生だったな。あっという間だったな。

 

心臓がバクバクしていた。ん?バクバク?

アタシ生きてる??

 

目の前にある白いものをそっと触ってみた。エアバッグだ。

慌ててそれを手で払い下した。

 

あたりも真っ白な粉だらけだった。

フロントガラスは割れて粉々になり真っ白になっていたが、割れ落ちてはいない。

 

左をみると誰も乗っていない助手席のエアバッグも出ていた。

勿体ない、これってまた入れられるのかしら、なんてこんなときに考えている場合ではない。

 

まず何からすればいいのかしら。なにも考えられずにふと窓を見ると向こうにぶつかったベントレーが橋の欄干のところまで飛ばされていた。

その車から4人の男が降りてきてこっちに向かってくる。

トレーナーがミキハウスと書いてある。あたまはパンチパーマだ。

 

あぁ、やっちゃった。

何がどうなってこんな状況になったんだろう?

 

私の体はどこか変になっているんじゃないかしら。

足、膝が痛いな。

 

まもなく、そのパンチパーマの男たちが近づいてきた。

私はどきどきする心臓の音を隠すように冷静を装った顔で、窓をおろした。

 

「おねえちゃん、だいじょうぶかぁ?どこか痛いところないのか。」

「大丈夫ですよ。足がちょっと痛いけど。」

「今、救急車呼んだからな。それまで少し待っててな。」

「はい。」

「ところで、おねえちゃん、ダメだよぉ。赤信号で入ってきちゃ。なぁ。」

 

と同乗していた周りの仲間に同意を求めるとその同乗者たちも

「そうだよ。おねえちゃん、信号無視はだめだよな。」と言う。

 

「え?」一瞬、わけがわからなくなった。

私が?赤信号で入った?

 

動揺しているのをいいことに自分たちが全員口裏合わせで、私が信号無視で入ってきたかのようなことになっていた。

 

いや、ここで引き下がってはだめだ。

「なに、言ってんのよ。赤で入ってきたのはアンタたちじゃないのよ!なに嘘ついてんのよ。」

 

と言うと、「いやだなぁ。俺たちは青だったよなぁ。」と全員で顔を見合わせながらうなずいている。

 

そうこうしているうちに救急車が来て、私は車から降ろされ、救急車に運ばれた。

そこでまずは名前とか連絡先とかを聞かれていると、またその救急車に相手方の男が一人救急車の扉を開け入ってきた。

 

「いやぁ、俺も首痛いから一緒に病院に連れて行ってくれよ。」

たぶん、私が余計な事(本当は事実なのだが)を言わないように見張りをつけたのだろう。

 

車両の中が緊張感漂っている。救急車はそのまま出発した。

(続く)

 

佐々木ひとみ