『私はなぜ今ここに…』 第5話

 

さて、どうしよう。これからどうしよう。
別の仕事につくならこれがチャンスだ。

本来、行政書士になんかなるつもりはなかったではないか。

 

でも、あんなに勉強して取った資格をこのまま生かさないで終わるのか。

でもでも、今なの?

もっとちゃんと準備して自分自身が大丈夫と思ったときにじゃないの?

 

しかし、新しいところに就職したところで、30歳オーバーで新人だ。

同じ新人なら、開業した方がいいのではないのか。

どっちにしたって、どこに行ったって、何もわからない何も経験のない人間なのだ。

 

ぐるぐると悩むこと、1日くらい。

悩むという作業は元来性にあわない。

 

 

決めた。開業しよう。やるだけやってダメなら就職しよう。

 

 

伯父には同じ事務所に勤める長男とは別に、行政書士事務所を開業している次男がいた。

伯父はとても優しい人だったので自分が死んだあとは仲良くやってくれると信じていたのだろう。しかし、息子たちには息子たちの考えもある。

 

ほどなくそこは『争続』となった。

 

伯父が死ぬ直前に、行政書士の次男が事務所に連絡をしてきて私に話がある、と言った。

 

もうまもなくオヤジは死ぬ。佐々木さん、あなた、行政書士の資格を持っているだろう。

はい、と私。

 

オヤジのいない長男と経理だけの事務所は資格を持っている人間がいない。しかし、あれだけの収入を手放すわけがない。いずれ赤の他人の資格保持者と組んで再開するだろう。

 

オヤジのことを尊敬してオヤジを好きで来てくれていたお客さんが散り散りになるのも嫌だが、長男が赤の他人と組み、その赤の他人に持っていかれるのも本意ではない。

 

佐々木さん、私の事務所で一緒にやらないか。

佐々木さんが父のお客を集めて来てくれるのであれば、私はまだ納得いくのだ。

どうだ、うちの事務所に席を置き合同事務所という形でやらないか?

当然、仕事もまだまだ知らないことがいっぱいあるだろうから、うちの事務所ですべてフォローするから。

 

 

…よくわからない。

あなたたちの気持ちはわからないではないが、私には関係ないのではないか?

 

でも、一人で事務所を立ち上げて、となると本当に不安だ。

お客さんがいるのかどうかもわからない。お金の心配、仕事の不安もたくさんある。

 

先生がそう言ってくださるのなら、今は甘えさせてもらおうか。

幸い、大先生の顧客リストはすべて私の頭の中にある。

 

何の経験もない、30そこそこの人間が全てを俯瞰して見ても判断は不可能だった。

今までの人生経験の中で滅多にないようなこの状況をすべて見渡すことなぞできるはずもない。唯一の頼りは私の頭の中の葛西陸運相談所に来ていたお客様だ。

 

 

わかりました。

できる限りのことはやってみます。早速行政書士の登録手続きに入りますと伝えた。

 

さて、戦闘態勢だ。

私はその足でなけなしの貯金をおろし、当時出始めていた携帯とワープロを買いに行った。(続く)

 

佐々木ひとみ

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